「表現力」と表現技術:鈴木明子全日本2013ショートを例にとって

事例研究

昨日「表現技術」についてお話しましたが、実例として鈴木明子選手のショート愛の賛歌を見てみたいと思います。素晴らしい演技なので解説するのも野暮なのですが、野暮を承知で。

画質がいいのが消されてしまったので下記か、もしくは各自録画を御覧ください。

曲の構成

まず曲ですが、有名なシャンソンの名曲。愛の喜び、苦しい時でも愛さえあれば、そういった情熱か歌われてる曲です。形式としては典型的なABA'の三部形式で、

  • 印象的な長調での第一主題の提示(A1,A2)
  • 短調の第二主題(B1,B2)
  • その後カデンツァを挟んで(Cz)
  • 第一主題の再提示及び展開でクライマックス(A1’,A2’)

となります。要素としては、

  • A1: コンビネーションジャンプ
  • A2: ソロジャンプ
  • B1: フライングキャメル
  • B2: レイバック
  • Cz: 2A
  • A1’: ステップ
  • A2’: コンビネーションスピンでフィニッシュ

と曲の進行に合わせて組み込まれています。

第一主題

初めの主題提示部では、動きは穏やかで柔らかく、目も時折空を見上げながらも伏し目がちで、まだ感情を内に秘めた状態です。フットワークもあまり細々としたのは入れずに、基本の動きで緩やかに開始します。

最初のジャンプ着氷後も、チェック後少し溜めて一旦伏し目がちに抑えた表現で、ツイズルの後一旦停止などで抑制が表現されてます。次のソロジャンプでは少しホップで出て、徐々に感情の高ぶりを見せてます。

第二主題

そこから調が変わりスピンに入ります。主題の始まりとともに入り、終わりとともに収まってます。最初の8小節でキャメル、次の8小節でレイバックとフレーズと要素を合致させています。 そこからカデンツァに入り、音楽の激しさとともに感情の高ぶりが出てきます。腕の動きも激しくなり、トゥステップでの前進など、感情の芽生えと発露が表現されてます。

カデンツァ

そしてカデンツァの終結から一旦音が消えての2A。プレパレ前の腕のポージング、メロディーに合わせた着氷、とても印象的かつ効果的です。そこから今まで内に秘めてたものが一気に噴出します。伏し目がち、抑え目、厳しめだった表情が、一転して喜びに変わり、目線も上を向きます。

第一主題の再現

再現された第一主題でのステップ。最初のみ提示時よりもオーケストレーションも厚くスケールも大きくなり、動きもそれに併せてダイナミックに、それでいて喜びを抑えきれない軽やかなトゥステップ、音に合わせたホップやパックインループなどを絡めた緩急。とても素晴らしい。

そしてそのまま最後のコンビネーションスピン。キャメルで入った後一旦シットで沈んでからアップライトに上がり、足を変えてまたシットから立ち上がりバッククラッチでクライマックス。最後は天に向けてのポージングでフィニッシュ。下から上への動作が用いられている。いやはや素晴らしい。

表現技術の事例

四肢の動かし方

腕の動かし方も、肘から手首、指先への動き出し、動きの速度の変化など、エッジトレースだけでなく動きもカーブを描いている。

目線の使い方

ストーリーに合わせた伏し目仰ぎ目の頻度調節、パッと振り向く目線の飛ばしと柔らかく回していく使い方など、バリエーションの豊富さと場面場面においての使い分けが巧みだ。

裏拍の効果的な使用

また、フレーズの効果的な使い方として、表拍だけではない、裏拍、音が鳴り終えたタイミングでの動きを随所に用いている。ミヤケンとの対談でも話していたのでご存じの方も多いだろう。 映像と合わせた方が解説しやすいのだが、ジャン!と鳴った瞬間ではなく、半拍おいた余韻の中で動きを取る。表拍だけだと単調になりがちだが、こういった裏拍を用いて印象づけている。

各レイヤーでの表現技術

このような、プログラム構成からエレメンツの配置、ストーリーの表出などの基礎レイヤーから、個々の動きのバリエーション、明確さ、使うタイミング、音楽とのマッチングなどの上位レイヤーまで各所に「表現技術」が用いられており、それらの高さを持って「表現力が高い」と評されている。

やっぱこれは動画でやったほうがやりやすいですね。また機会があれば